「住宅宿泊事業法」とは?民泊にどのような影響があるのか
[公開日]2017/08/28 [最終更新日]2017/11/14 賃貸物件,トラブル,契約違反,民泊
最近よく耳にする「民泊」とは、旅行者などに住宅の全部又は一部を活用し宿泊場所として提供するものです。
貸したい人と借りたい人をマッチングするインターネットサービス「Airbnb」などを中心に世界的に展開されており、日本でも民泊は広がりつつあります。
しかしながら、国内にはこれまで民泊に対する法律がなかったため、さまざまなトラブルが起きるだけでなく、個人の参入も難しい状況にありました。
そこで2017年6月9日、政府の規制改革推進によって「住宅宿泊事業法」が成立し、早ければ2018年6月から施行される運びとなりました。
ではまず、いわゆる「民泊新法」である「住宅宿泊事業法」の内容や現行法との関連、民泊に与える影響などについて紹介しましょう。
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現行法で民泊サービスを行うには
旅館業法の簡易宿所営業で許可を取得するか、特区民泊により認定を受けるかの二つの方法があります。
旅館業法 簡易宿所
旅館行法の簡易宿所は、旅館やホテルよりも規制が緩く、ペンションやユースホステルなどに適用されています。
しかしさまざまな条件があるため、個人が活用するには簡単ではありません。
延床面積 | 規制緩和によって「宿泊者の数を10人未満 とする場合には、3.3㎡に当該宿泊者の数を乗じて得た面積以上」と定められました。
以前は「客室の延床面積が33㎡以上」と定められていました。 |
入浴 | 近接して公衆浴場があるなどの場合を除き、宿泊者数に見合った規模 の入浴設備を有すること |
換気ほか | 適当な換気、採光、照明、防湿、排水の設備を有している。
他には「都道府県が条例で定める構造設備の基準に適合すること」 が必要です。 |
建物の種類
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建物の用途
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簡易宿所営業を行う建物 | 「ホテル」または「旅館」 | 民泊サービスを提供する建物 | 「住宅」または「共同住宅」の場合がほとんど |
このとき、建築基準法の定めでは用途変更が必要となりますが、「ホテルまたは旅館」の立地自体が禁止されている地域があるのです。
また、100㎡以上の場合には用途変更の「建築確認」という手間のかかる手続きが必要となります。
特区民泊
「簡易宿所」の許可よりも緩い認定を受けることが必要で、これに該当する場合は旅館業法の適用除外となります。
認定の要件は以下の通りです。
- 賃貸借契約に基づき使用
- 施設使用期間は3日から10日までの条例で定める期間
- 居室は原則として25㎡以上
- 構造、設備、家具、器具についてそれぞれの定めに適合
- 外国語による利用案内、緊急時の情報提供
特区民泊の問題点としては、使用期間に制限があること、そして適用される自治体が、東京都大田区、大阪府、大阪市とごく一部の地域にかぎられており、今後も広く普及するとは考えにくいことです。
「住宅宿泊事業法」制定の4つの狙いとは
- 無許可での民泊サービスを適法に
- 民泊ニーズ拡大への対応策
- 民泊の安全性の確保
- トラブル防止
簡易宿所や特区民泊は、制度適合への制約や利用の制限があることから、許可や認定を受けずに営業しているケースがあります。
個人でも活用しやすい実態に即したルールを作り、適法なかたちでの民泊の拡大を図ろうとしています。
政府は2020年の東京オリンピックを好機とし、観光立国の推進を提唱しています。
急増する訪日外国人観光客のニーズを満たすとともに、増え続ける空き家対策に有効なものと位置付けられています。
衛生面の悪化や、犯罪・テロ等の拠点として悪用されること防ぐため、名簿の記録など利用者管理の強化が必要とされています。
ゴミ出し、騒音などによる地域住民とのトラブルが民泊への抵抗感につながっているため、防止することが急務となっています。
「住宅宿泊事業法」の主な特徴と民泊への影響
「宿泊施設」ではなく「住宅」
これまで民泊は旅館業法での「宿泊施設」としての扱いでしたが、新法では「住宅」と位置付けられています。
これにより、旅館業法で営業する際に大きな問題であった「用途変更」も必要なくなりました。
さらに、住居専用地域など宿泊施設としては許可が得られない場所でも可能になり、民泊普及に向けての追い風となります。
しかし、自治体でその地域の民泊を認めないことも可能なため、法律だけでなく条令等をチェックし検討していく必要があります。
また、法律の定めではありませんが、マンションの管理組合の規約で民泊が禁止されている場合がありますので事前の確認が必要です。
なお、この「住宅」とは台所や洗面設備が整っているもので、物置やガレージ、倉庫などは民泊として貸し出すことはできません。
営業可能な日数の制限
年間の最大営業日数は180日以内と定められていますが、自治体の条例で日数を短縮できることになっています。
これは新法では個人が容易に民泊サービスを提供できるため、旅館業を営む事業者に配慮したといわれています。
事業用の資産では、年の半分ほどの営業では採算が合わない可能性もありますが、個人の住宅の活用であれば180日でも十分といえます。
「Airbnb」では、万が一制限を超えて貸し出そうとしても、宿泊予約ができないように該当住宅が表示されなくなる見込みです。
なお、簡易宿所や特区民泊では最大営業日数の定めはありません。
宿泊日数の制限がない
これまで特区民泊では2泊3日以上という条件がありましたが、新法ではこの制限がないため1泊2日からでも宿泊者を受け入れることができます。
短期間でいろいろな場所に訪れたい旅行者のニーズに対応することができ、民泊がより手軽なサービスになります。
民泊の家主についての分類
新法では民泊を「家主居住型(ホームステイ型)」と「家主不在型(投資型)」の2つ分けています。
「家主居住型」とは家主が生活している場所の一部を貸し出すもので、ルームシェアをするイメージです。
一方「家主不在型」は、家主が自ら居住しない住宅を貸し出すものです。
家主不在型は鍵の貸し出しなどによって旅行者だけを宿泊させるため、とくに外国人などによる、騒音やゴミ出しのトラブルが起こりがちです。
このため、「住宅宿泊管理業者」に管理を委託することが義務付けられています。
「許可」ではなく「届出」で可能
旅館業法では「許可」が必要でしたが、これは一旦「禁止」にしたうえで一定の要件を満たす場合に禁止を「解除」する方法です。
一方で新法の「届出」とは、禁止ではないが放任できないため、事前通知を義務付けたものです。
このように、手続きが容易になっただけでなく、民泊に対する基本スタンスも法的に容認の方向へと変わり、サービス拡大に沿った制度変更となっています。
「住宅宿泊事業法」の規制を受けるのは3者
新法では、民泊サービスに関与する者を3者に定義しています。
それぞれ異なる行政機関への申請を必要とし、各機関の監督を受けることになります。
住宅宿泊事業者 (民泊ホスト) |
民泊ホストは「家主居住型」と「家主不在型」のいずれも都道府県知事への届出が必要となります。 |
住宅宿泊管理業者 (民泊運営代行会社) |
家主不在型の民泊の場合は、民泊運営代行会社への管理委託が必要ですが、この代行会社は国土交通大臣への登録が必要です。 |
住宅宿泊仲介業者 (民泊仲介サイト運営会社) |
民泊ホストと宿泊者を結びつけるインターネットサービスを展開する運営会社は観光庁長官の登録が必要となります。 |
民泊サービスに関与する3者の業務上の規制や義務とは
住宅宿泊事業者 (民泊ホスト) |
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住宅宿泊管理業者 (民泊運営代行会社) |
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住宅宿泊仲介業者 (民泊仲介サイト運営会社) |
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まとめ
政府は観光立国への方策として、民泊を拡大し日本経済の発展に寄与させようとしています。
しかしこれまで、拡大に向けた法制度は未整備の状態でした。
旅館業法は戦後に劣悪な宿泊施設ができないよう規制をかけることを目的としたもので、その対象には旅館やホテルを営む事業者を想定していました。
日本で民泊サービスを営業するときにも、この古くからある旅館業法の制約から逃れることはできませんでした。
そのため、海外で盛んな個人の民泊の普及はまだまだといえ、なかには許可をとらない違法営業も存在してしまっているのです。
そこで、政府としても民泊拡大に向けた法整備が急務と考え、今回の新法成立につながったといえます。
すでに宿泊仲介サイトが日本でも広がりつつあるなか、後追いの形での法案成立となりました。
新法はシンプルでわかりやすいものです。
しかし、各自治体が条例で定められる余地が大きいため、今後は地域の実態に合わせて制限のレベルが変わってくるものと思われます。
このとき大きな影響を与えるのが、住民の理解と民泊への考え方、外国人旅行者の受け入れに対する積極性となります。
もし住民が大きく反対すれば、その自治体では規制を強める方向へと向かわざるを得ません。
今回の新法は「民泊基本法」と言い換えることができます。
そのため、細目は国民一人ひとりの考え方と意識によっては変わる可能性を十分に踏まえたうえで、「民泊」に対して改めて考えて直すことが重要となるでしょう。
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