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やさしく解説!民法改正による賃貸借契約への影響

[公開日]2017/07/24 [最終更新日]2017/09/25 ,,,


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2017年5月、民法改正案が参議院で可決成立され、1896年に制定された民法が実に120年ぶりに改正されることになりました。

現代語への変更や一部の改正はこれまでもありましたが、今回は約200項目におよぶ初の大改正です。

民法改正案には賃貸借契約に関連する部分も含まれています。

では具体的にはどのような部分が変わるのでしょうか。

そこで、今回の主だった改正点を、その影響についても分かりやすく説明します。

施行予定は2020年をめどとされていますが、民法改正に対応するために前もって知っておきましょう。

民法改正案、全体の変更点

まず民法とはそもそもどのような法律でしょうか。

分かりやすく言うと、私たち国民が社会で生活していくうえで必要なルールを定めたものです。

ただ家族関係や財産関係まで非常に広い範囲に渡るため、各項目についてはあまり細かな定めがありませんでした。

そのため民法制定以後、社会・経済・生活は複雑化していき大きく変わるなかで、想定されていなかった分野や細かな部分については、別の法律として定めてきました。

不動産賃貸に関するものでいえば、借地借家法がそれにあたります。

さらに規定されていない部分に関しては、判例や国土交通省のガイドラインなどに沿って実務上の判断がされていました。

しかし今回の民法改正によって一部が明文化されるので、今まで個別判断してきたことにも影響の出る部分があるのです。

敷金およびその返還に関して

敷金の定義

「その名目が何であっても(保証金など)、賃借人の債務を担保するために、賃借人が賃貸人に交付する金銭をいう」

今回の改正で初めて定義されました。

この場合の「担保」とは、発生するかもしれない家賃滞納などのリスクが起きた時に、敷金から補うことを意味しています。

ただし、敷金の目的はこれまでどおりの解釈と変わらないので、現在の一般的な賃貸借契約が変わることはありません。

一方で礼金については触れられておらず、法律的な位置づけを持たない商慣習上の金銭であるとあらためて明確となりました。
よって今後は徐々に取りにくい状況になっていく可能性があります。

敷金返還の要件

「返還の時期は賃貸借契約が終了し、かつ物件の返還を受けたとき、又は、賃借人が適法に賃借権を譲渡したとき」

「返還の対象は、敷金から賃借人の債務を控除した残額」

最初の要件によって、賃貸人は物件の明渡しを受けるまでは敷金の返還を拒めるようになります。

これは賃貸人が賃借人に、法的な根拠をもとに明確に主張できる点となりました。

また返還の金額が、未払い家賃や、原状回復費を除いた額となったことで、当然「差し引き返還」ができるようになります

これにより、賃借人が「まずは敷金を全額返せ」と主張できなくなります。

原状回復負担に関して

「賃借人には原状回復義務があるが、通常の使用による損耗や経年による変化は除外され、また破損などについても賃借人の責任でないものは除外される」

「通常の使用による損耗」とは、普通に日常生活を送っているなかでの汚れや擦れ、摩耗などです。

また「経年による変化」とは日焼けや変色、変質などを指します。

これは、今までのガイドラインに沿った実務上の考え方と同じものではあります。

しかし法律に定められたことによって、賃借人への過剰な請求自体が違法な行為へとつながるため、退去修繕に関するトラブル減少に効果があるといえるでしょう。

賃貸人の修繕義務や修繕権に関して

賃貸人の修繕義務の範囲

「賃貸人は必要な修繕を行う義務を負うが、それが賃借人の責任で必要となった場合は除外される」

物件を良好な状態に保つことは賃貸人の義務ですが、賃借人の責任で修繕が必要な場合は除外されると初めて明確になったわけです。

これにより、修繕費用は賃借人負担とすることが実務上では定められたと考えて良いでしょう。

賃借人の修繕権

「修繕が必要なことを通知しても賃貸人が修繕しない、および急迫の事情があるときに、賃借人は自分で修繕できる」

この急迫の事情が何かについては今後具体的な指針が示されるでしょう。

主なケースとしては、水道管の破裂や階下への水漏れ、ガス漏れの可能性、漏電などの、近隣への深刻な影響が想定されるライフラインの問題が挙げられます。

物件の一部滅失に関して

賃料は当然減額

「賃借人の責任によらず、物件の一部が使用できなくなった場合、賃料は使用できない割合に応じて当然に減額される、これには賃借人から賃貸人への請求は減額される要件ではない」

現行は「賃借人が減額請求できる」とされていますが、「当然に減額される」となりました。

ただし、賃貸人が賃借人に責任はないと認めてもらうには、賃借人がそれを立証しなければなりません

そのため実務上では、これまでとあまり変わらないと言えます。

契約解除

「物件の一部が使用できないことにより賃借の目的が果たせない場合、それが賃借人の責任による場合でも、賃借人は賃貸借契約を解除できる」

現行は賃借人の責任でない場合にかぎり契約解除できるとされています。

しかし住めない状態であれば契約は続かないと、より踏み込んだ内容の改正となりました。

責任の所在に関係なく契約解除できるとはいえ、賃借人に責任がある場合には、賃貸人は損害賠償請求をすることになるでしょう。

連帯保証人の保証極度額の設定に関して

責任の最大額

「賃貸借契約の保証人の債務金額は特定されていないため、 保証人が責任を負う最大額を定めることとし、これを書面や電磁的記録で契約されなければいけない」

貸金債務にはこれまでもこのような定めはありましたが、今回の改正で賃貸借契約も対象となりました。

これには、より広い範囲で個人の保証人保護を行うという狙いがあります。

改正により、契約書には保証極度額を明示することが必要になります。

しかし、どのくらいの金額であれば許容されるのか、またどのように記載するかについては明確になっておらず、今後の実務指針を待つこととなるでしょう。

保証すべき額の確定

「特定されていない債務の元本額が確定するのは、保証人が破産決定を受けたとき、賃借人または保証人が死亡したとき、保証人の財産が差し押さえなどにあったとき」

「確定」とはそれ以上増えないことを意味しています。

また「元本」と特定しているのは「遅延損害金」が増えるという意味ですが、これらは極度額の範囲内でしか増えません。

連帯保証人の保証極度額の設定によって、保証人に対して際限のない多額な請求は今後できなくなるでしょう。

賃借人の情報提供に関して

保証人の請求による情報提供義務

「保証人は、保証している賃借人の債務の元本や利息、不履行の有無、債務の残高などに関する情報を、賃貸人に請求すれば知らせてもらえ、賃貸人はこの請求を拒むことができない」

賃貸人は情報を教えなくても特段の罰則はありません。
しかし、損害賠償請求を受ける可能性があるので注意が必要です。

これにより、賃借人が保証人を頼む相手は自分の支払い状況などを情報提供しても良い人となるため、より関係性の強い人にかぎられると予想されます。

また保証人が賃貸人に直接請求できるよう、実務上の対応としては連絡先などの情報をあらかじめ教えておく必要があります。

保証契約締結時の情報提供義務(事業用不動産)

賃借人の情報提供

「賃借人が個人保証を依頼するとき、自分の財産や債務の状況、担保として提供するものがあるかなどについて説明しなければならない」

保証契約の取り消し

「賃借人が説明をしないまたは事実とは違うことを説明し、かつ賃貸人も事実でない説明をしたことを知っていた場合、保証人は保証契約の取り消しができる」

これは事務所や店舗などの事業用不動産に適用されるものですから、居住用不動産は対象外です。

賃貸人は、保証人が賃借人からきちんと事実に基づく説明を受けたかどうかを確認しておかないと、これらの定めによって保証人がいなくなるという事態も起こりえます。

そのため、確認書の受領の手間が増えることになるかもしれません。

まとめ

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賃貸借契約に関連する民法改正は、スムーズに契約を履行することが大きな狙いです。

賃貸借契約で頻繁に争点になる事象や、ガイドラインなどで方針が示されていても、実態としてそれを超えた要求がされていることに関するトラブルを未然に防ぐため、法律に盛り込まれることになったわけです。

これらはいずれも、改正の項目ごとに賃借人、賃貸人、保証人の各契約当事者の保護の拡大を目指したものとなっています。

国民生活の住環境整備において、重要な役割を担っている賃貸住宅の事業と、そこでの生活をより安定したものにしていこうとする意図も垣間見えます。

2020年に施行予定の歴史的な民法改正に備え、賃貸住宅にかかわるすべての人々は、関心を持って理解を深める必要があるでしょう。

 

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