高齢者向け賃貸物件の問題やトラブル!孤独死に対応した保険とは?
[公開日]2017/08/18 [最終更新日]2017/09/25 賃貸物件,一人暮らし,トラブル
高齢者が賃貸物件に住む場合、ほとんどの方が何かしらの不安や心配事はあるでしょう。
とくに一人暮らしであれば、事故や病気による命にかかわるリスクも考えなければいけません。
高齢者向けの賃貸としては、2011年の制度スタートから国の補助金の効果もあり、住み慣れた環境で豊かに暮らすために実現した「サービス付き高齢者向け住宅」(以下、「サ高住」)の供給に拍車がかかっています。
しかし多くの事業者が参入して数は増えたものの、入居者の望むサービスと施設側の思惑にズレが生じているケースもあるのです。
「サービス付き高齢者向け住宅協会」が行った満足度調査によると、大変満足と満足が68%、どちらでもない、やや不満、不満が29%と、満足のほうが多くなっています。
満足している方が多いとはいえ、不満要素には多くの問題点が潜んでいることに注目すべきです。
そこで、サ高住のサービスの実態と実際に起きている問題やトラブルの事例のほか、賃貸物件に住む高齢者の、命にかかわるリスクへの対応方法についても紹介していきます。
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サ高住のサービスの実態
1.事業者の多くは営利目的法人 | 約70%が株式会社または有限会社で、医療法人や社会福祉法人は20%強程度です。
営利目的法人による運営が多くを占めていることが分かります。 |
2.介護・医療の専門家以外も参入 | ほとんどが介護系医療系の事業者ですが、割合的には少ないものの約1割は不動産・建設・住宅販売会社です。
なかには高齢者の介護・医療に詳しくない事業者もいることが考えられます。 |
3.専有部分の面積はワンルーム程度 | 18㎡以上20㎡未満が全体の約57%と多くを占め、学生の一人暮らしのようなワンルームに住んでいます。
ほか、25㎡以上30㎡未満が約14%、20㎡以上22㎡未満が約13%と続きます。 住戸面積18㎡未満の住宅は0.1%ですから、ほとんどの部屋で18㎡以上の広さは確保されています。 |
4.多くが介護施設を併設 | 全体の約77%が訪問介護などの施設を1件以上併設しています。
事業者側はこの施設と合わせてサービス利用されることを前提としています。 |
5.一部24時間体制ではないところがある | 約27%の施設は、夜間が緊急通報サービスによる対応になっています。
そのため、職員やホームヘルパー2級以上の資格を有する者が24時間常駐していない施設というのも意外に多くなっています。 |
これは、「高齢者住宅研究所」の2017年6月の調査結果によるものです。
この調査によって、入居者の快適な暮らしや安全についてはある程度考えられているものの、事業者側の収益性や効率性も重視した施設運営となっていることが分かります。
本人の希望が無視されているケースも!
事業者側の都合によって、本人の希望がまったく無視されているケースもあります。
下記はその一例です。
併設事業所のサービスを利用させられる
本人もデイサービスを楽しみにしていました。
しかしサ高住に入居してからは行かなくなり、代わりに一日3回もの訪問介護を利用し始めたのです。
ケアマネージャーは不思議に思い管理者に尋ねると、本人が嫌がるのでデイサービスには行かずに併設事業所のサービスを使っているという回答。
サ高住に住み始めて環境の変化はありましたが、急に本人が嫌がるとは考えにくいです。
実際は、事業者側が他社のサービスを使わせないようにしたものだと分かりました。
周りは認知症患者ばかり
しかし、ある施設に自立した高齢者が入ってみると、自分以外はすべて認知症の方でした。
これについて事前の見学の時には何の説明もなかったのです。
この方は他の入居者との楽しい付き合いを期待していたのに、それができなかったため数日で解約し、また他の施設を探すことになってしまったのです。
要介護度が高い入居者を求めている
それからリハビリを頑張り、翌年には要支援2と認定されました。
しかしその時の事業者側の反応は、「他の施設に移ることを考えてほしい」と退去をお願いするものでした。
契約の際にこのような話はなく、また別の住宅を探すとしても高齢のためすぐには見つかりません。
この高齢者は、大変なリハビリを頑張ったにもかかわらず、退去への不安を抱えたまま暮らさなければなりません。
逆に事業者側とすれば、介護度が落ちたり要支援になると併設事業所のサービス利用額が減ってしまい困るため、退去を促しているのです。
契約時と話が違うケース
ほかにも事業者側からの説明がなかったり、契約時の内容が違っているというケースがあります。
下記はその一例です。
安否確認もない
しかしある施設では、安否確認を実際には行っておらず、異常があればセンサーが鳴って知らせるというやり方でした。
つまり、職員は部屋に訪ねてこないのです。
また、介護サービスを提供する事業所と兼務しているため、窓口に職員がいない状態になっていました。
これでは月3万円を超えるサービス費が何に使われていたのか疑問です。
他の施設では、食堂に集まった時に安否確認を行っていたり、電話で済ませるというところもあるなど、国の制度である基本サービスの提供さえきちんと行われていないのが現状です。
夜間のオンコール対応が救急車
調査の結果、施設側の人員体制が不足しているのが原因と判明。
この施設では、とくに夜間は職員が少ないこともあり、オンコールへの対応に手が回らず、何かあればすぐに救急車を呼んでいたのです。
この後、市の担当者や消防署から厳しい改善指導を受けたということです。
認知症が進むと退去
契約時には認知症が進んでも住み続けられるという話でした。
しかし、事業者側からは対応できないと退去を求められたのです。
認知症については受け入れ体制が整っている前提のはずが、実際には十分なサービスを提供できるレベルにない施設だったということが分かります。
高齢者の生活上のリスクと対応方法
ここからは、サ高住も含めて高齢者が生活していく上でのリスクや対応について紹介します。
身の回りには危険がいっぱい
階段やお風呂だけでなく、室内でも床にあるものにつまづいたり、身の回りの何でもないものでもリスクとなります。
また、心臓や脳の疾患、インフルエンザ、熱中症などの病気で倒れるケースもあるでしょう。
これらのケガや病気は、発見が遅れれば命を落とす危険さえもあります。
高齢者向けの賃貸住宅では、安否確認や緊急時対応を行なうサービスがあるため、ある程度の安心感はあります。
しかし1対1で見ているわけではないので、リスクがないとは言いきれません。
ましてや、多くの一般賃貸で一人暮らしをする高齢者であれば、常にこのリスクに直面していると言えます。
何かあったときの対応には契約書を工夫
たとえば「外出などで部屋を2日以上あける場合は貸主に連絡する」や、「借主と2日以上連絡がとれない場合は、室内の確認を実施する」と定めます。
これによって、たとえ貸主が異変を感じた場合でも、何日も部屋の中を確認できないような状況にはならないでしょう。
万が一に備えた保険も
対策として地域での見守り活動などが行われているものの、残念ながら孤独死は減っていないというのが現状です。
高齢者の中には「死んだあとまで人に迷惑をかけたくない」という声もあるようです。
そこで万が一への備えが必要になってきています。
ひとつの対策としては「孤独死対策保険」です。
この保険は、「少額短期保険会社」という小さな保険商品を扱う会社を中心に、2011年頃から約10社で販売されています。
貸主と借主のどちらも契約ができ、遺品整理や室内の清掃、消毒、修繕にかかった費用などの支払いが受けられます。
借主が保険料を払う場合には、葬儀や納骨の費用まで保険で支払われるものもあります。
さらに、保険金の受取人を貸主などの第三者に指定できるものがあるなど、身寄りのない高齢者でもスムーズな保険対応が可能です。
今後は高齢者の単身世帯が増加していくため、このような保険への加入は一般的なものになっていくでしょう。
まとめ
高齢者向け賃貸物件へは、不動産開発業者、介護事業者、医療法人、社会福祉法人などの新規参入が相次いでいます。
サ高住は一定の要件を満たせば、建設にあたっては国から補助金が、また介護サービス事業所などを併設すれば、介護保険適用の報酬も得られます。
そのため事業者にとっては大きなビジネスマーケットとなるからでしょう。
不動産開発プラス介護サービスという、収益性の良いビジネスモデルができ上がりつつあります。
しかし一部では、高齢者の希望よりも収益を高めることを第一に運営している金儲け主義の事業者が存在しているのも現状です。
高齢者向け賃貸住宅は、高齢者の平穏で豊かな暮らしを支える場を目的としているはず。
ですから、この事業者側の都合によるトラブルに対しては、今後行政側の強い指導が求められます。
もちろん高齢者向け賃貸物件に住もうという方も、不明なことやこだわりの点については、納得いくまで確認し明確な説明を求めることが重要です。
そして、もう一つの大きな問題は孤独死対策です。
高齢者が生活する上で、このリスクは避けて通れません。
まずは孤独死を減らしていくことが最優先ですが、高齢者は今後も増え続けていきます。
サ高住などの高齢者向け賃貸住宅だけでは居住施設の確保は難しいので、一般の賃貸物件にも入居しやすくなるような対策が必要となるでしょう。
それには貸主側のリスクに対する不安材料が少しでも減らなければなりません。
先述した「孤独死対策保険」などはかなり有効となります。
一般の賃貸でも安否確認や生活相談などのサービスを受けられるしくみなど、高齢者が単身でも安心して住める住環境と、地域社会も含めたサポート体制の構築が望まれます。
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