電力自由化したけど、引っ越しの時に新しい電気会社と契約したほうがお得?
[公開日]2016/12/26 [最終更新日]2017/12/21 電力自由化
2016年4月からスタートした電力自由化。開始されてから時間が経つけど、結局のところ電力自由化がどういうものなのか、いまひとつ理解できていないという方も多いでしょう。
今回の記事では、電力自由化に関する基本的な情報をお伝えします。
目次
電力自由化によって、電力会社を選べるようになる
これまで、電力は各地域ごとに決められた企業しか販売することができませんでした。
関東なら東京電力、関西なら関西電力といったように、契約先は住んでいるところによって定められていました。
地域独占にすることによって、安定して電気を供給できるようにするという理由からです。
それにより、各電気会社も安心して設備投資もできましたし、国民も安心して電気の供給を受けられたというわけです。
しかし、2016年4月からは申請をして認可を受けた小売電気事業者が自由に電気を販売(売電)してもいい、ということになります。
同時に、住んでいる地域に関係なく、消費者も自分で電力会社を選べるようになります。これが『電力自由化』です。
この電力自由化により、価格競争が起こると考えられ、電気代が安くなるという期待をしている方も多いのではないでしょうか。
事実、北海道と沖縄を除く大手電力8社が新電力に対抗するために家庭向け新料金メニューを発表しています。
東北電力 | オール電化住宅の場合、月2万2,500円の料金から1,650円引き |
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東京電力 | 電気使用量が多く、料金が月1万7,000円以上の家庭は最大5%引き |
中部電力 | あらかじめ2年契約すれば月8,500円の料金が3%引き |
北陸電力 | 電力会社からの節電要請に応じた家庭には、節電実績に基づいて値引き |
関西電力 | 料金が安い「夜間料金」の対象時間帯を2時間拡大し、夜間に使うほど割安 |
中国電力 | 電気使用量が多く、月1万6,001円の家庭は5%引き |
四国電力 | 土日、祝日の利用が多い家庭向けに、月1万2,200円の料金を400円引き |
九州電力 | 電気使用量が多く、月1万3,145円の家庭は162円引き |
※上記は各電力会社の新料金プランの一例になります。
※値引きは各社の現行料金との比較になります。
これはいい!と思う一方で、色々な疑問や不安も出ています。
電気会社を替えることで停電が増えたりしないのか
結論から言うと、電気会社を替えたからといって停電が増えることはありません。
電力供給経路はこれまでと同じであるということと、電力の供給は同じ電線を通して各会社が行います。
そのため、万が一契約している電力会社がトラブルなどで電力の供給ができなくなったとしても、他の電力会社がその分を補うという仕組みです。
万が一、電力会社が潰れたら、電力の供給はどうなる?
先ほどの停電に絡む話ですが、契約した電力会社が倒産したら電気は止まるのではないか、といった疑問が出てくると思います。
その点も問題なく、消費者保護の観点から、電気が止められることはありません。
万が一、契約している電力会社が潰れた場合は、地域の電力会社から電気を受け取ることができます。
その間は電気料金が高くなってしまいますが、新しい電力会社を探して契約するまで電気が止まるといったことはありません。
海外の事例から見る電力自由化のリスクとは?
電力自由化は海外ではかなり前から始まっており、アメリカでは1990年代、EUでも「EU電力自由化」指令で1999年2月から電力自由化が開始されています。
電力自由化についていろいろと調べている方は目にしているかもしれませんが、アメリカやイタリアでは電力自由化後に大規模な停電が発生しています。
2003年8月に発生した「北アメリカ大停電」、2003年9月に発生した「イタリア大停電」などです。
北アメリカ大停電ではオハイオ州、ニューヨーク州など、8つの州が停電し、アメリカ合衆国4,000万人、カナダ1,000万人の計5,000万人が、イタリア大停電ではサルディーニャ以外の全域で停電し、5,600万人が影響を受けました。
しかし、これらはシステム障害や倒木が電線に接触した関係で引き起こされた停電で、電力自由化そのものが影響しているとは言えないものです。
また、アメリカの場合、州ごとに法律が異なっていますが、日本は国が定めた法律に基づいて電気の供給が行われるので、地域ごとに電気の供給に対する規定が異なると言ったことはありません。
他にも、2015年4月に「電力広域的運営推進機関」が発足され、これまで地域ごとに行われていた電力需給の管理を、地域を越えてより効率的にやり取りできるようになりました。
これによって、安定的な電力需給体制の強化を実現します。
世界的に見て日本は電力自由化がかなり遅れていると言えますが、これまで日本はインフラの整備をしっかりと行ってきたので、アメリカやEUなどと比べると安全性が高いと言えます。
電力自由化で電話代は安くなる?
ここまで電力自由化の基礎的な部分を述べてきましたが、ここからは電力自由化によって我々の生活にどういった変化があるかについてお伝えしていきます。
まず気になるのが電気代が安くなるかどうか、という話ですよね。
現在、ソフトバンクやauを始めとし、各社が様々なプランを出しています。
これから参入してくる電力会社のことを考えると、選択肢はさらに広がっていきます。
自分にとって、よりよいプランが選択できるようになる、ということですね。
その一方で、選択を間違えると今よりも料金が高くなってしまう可能性があるということも言えます。
そうならないために、電力会社を乗り換える前に下記を確認しましょう。
現在の毎月の電気代
今現在、毎月いくら電気代を払っているかを把握することはとても大切です。
これが分からないことには電力会社を替えることで電気代が安くなるかの判断ができません。
電気を使う時間帯を把握する
現在、時間帯に関係なく、使用量に応じた料金設定である「従量電灯」で契約している家庭がほとんどだと思います。
しかし、必ずしもそれが最適かというと必ずしもそうとは言えません。
例えば、共働きしている夫婦の場合、日中は電気は一切使わず、夜だけ使う、といったライフスタイルだと思います。
そういった場合は、夜の電気代が安くなるプランを申し込むことで安くなる可能性が考えられます。
電力自由化に伴う「新プラン」の陰に隠れてしまっている「ある事実」
今回の電力自由化に伴い、これまで電気を販売してこなかったソフトバンク(ソフトバンクでんき)やKDDI(auでんき)などの通信会社、東京ガスやJXエネルギー株式会社(ENEOSでんき)といったガス・石油会社、明らかに電力販売に無縁だったコンビニのローソン(まちエネ)まで電力販売に名乗りを上げています。
各社それぞれサービスや料金が異なりますが、ソフトバンクやKDDIの場合はスマホやインターネットに加入していること、東京ガスの場合は電気とガスをセットで申し込むことなど、自社商品とセットでお得になるというのが基本です。
この辺は各社の申込ページにも書かれているので、何を今さら、と思うかもしれませんし、電力自由化で電気料金の見直しを検討して、色々と調べている方なら周知の事実だと思います。
しかし、新料金が出てくる一方で、2016年3月までしか申し込めない料金プランがあるといったことはあまり知らないのではないでしょうか?
先行受付で申し込むとお得になるんでしょ? と考えた方がいたとすれば、あることを見落としている可能性が高いです。
これまでの電気プランが廃止される
今回の電力自由化に伴い、東京電力や関西電力など、既存の大手電力会社も電気料金プランの見直しを行うことになります。
それに伴い、現在提供されている料金プランの新規加入の申込が終了します。
※図は東京電力の発表。
ここで一番着目したいのが夜間にお得なプランです。
東京電力の場合、おトクなナイト8・10、夜得プランがそれにあたりますが、いずれも夜間時間が1kWhにつき12円程度となっています。
しかし、これが申し込めるのは発表されている通り2016年3月31日までで、2016年4月以降は新料金プランでしか申し込みができなくなります。
学生や共働きの家庭など、夜間に電気の使用量が多い家庭にとっては、4月を待って新しい電気料金プランが出揃うのを待つとか、各会社のセット割がお得、みたいなことを言っていたらかえって損をする可能性が十分にあるということです。
そのため、現在の電気料金の使用量や時間帯の把握、そしてそれに伴って何を申し込みするべきかをしっかりと見定める必要があるのです。
実際に、下記条件で試算してみる。
- 住所:六本木
- 電力会社:東京電力
- 契約プラン:夜得プラン
- 契約の大きさ:50A
- 電気使用量:300kwh(1ヵ月)
- 人数:2人
- ライフスタイル:夜間によく電気を使う(日中不在が多い)
その結果・・・
年間3,894円割高という結果になりました(試算結果は『くらしTEPCO』のシミュレーターより)。
こんな感じに割高になるから、電力自由化で新料金に乗り替えたら損をするぞ! ということを言いたいわけではなく、こういう結果になることもあるという事実としてお伝えしておきます。
電力自由化が始まることで新しく出る電力料金プランに乗り換えることで得をする人はもちろん大勢いるでしょう。
しかし、今のプランが必ずしも損をするとは限らないということもしっかりと頭に入れておく必要があります。
とりあえず、大手電力会社の夜間に関するプランがどのように変わるかを下の表で比較してみてください(料金はすべて電気量1kWhあたりの料金)。
東北電力
2016年3月31日までのプラン | 2016年4月以降の新プラン |
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時間帯別電灯A(やりくりナイト8):10円92銭(午後11時~翌日午前7時) 時間帯別電灯B(やりくりナイト10):11円22銭(午後10時~翌日午前8時) 時間帯別電灯S(やりくりナイトS):11円22銭(午後10時~翌日午前8時) |
よりそう+ナイト8:10円92銭(午後11時~翌日午前7時) よりそう+ナイト10:11円22銭(午後10時~翌日午前8時) よりそう+ナイト12:11円71銭(午後9時~翌日午前9時) よりそう+ナイトS:11円22銭(午後10時~翌日午前8時) よりそう+ナイト&ホリデー:15円59銭(夜間:午後10時~翌日午前8時、休日:24時間) |
東北電力は、新料金プランになっても、ほとんど料金の値上がりはされませんが、やはり新料金の方が高くなります。
東京電力
2016年3月31日までのプラン | 2016年4月以降の新プラン |
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おトクなナイト8:12円16銭(午後11時から翌朝の午前7時) おトクなナイト10:12円41銭(午後10時~翌日午前8時) 夜得プラン:12円48銭(午後9時~翌日午前5時) |
夜トク8:20円78銭(午後11時から翌朝の午前7時) 夜トク12:22円55銭(午後9時から翌朝の午前9時) |
東京電力は約9円と大幅値上げ。東京電力管轄で、夜に電力を使うことが多い場合は、現在の電気料金プランを検討してみましょう。
中部電力
2016年3月31日までのプラン | 2016年4月以降の新プラン |
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タイムプラン(時間帯別電灯):13円45銭(午後11時から翌朝の午前7時) ピークシフト電灯:13円45銭(午後11時から翌朝の午前7時) Eライフプラン(3時間帯別電灯):13円45銭(午後11時から翌朝の午前7時) |
スマートライフプラン(朝とく):16円(午後11時から翌朝の午前9時) スマートライフプラン(夜とく):16円(午後9時から翌朝の午前7時) |
中部電力の場合、約3円ほど高くなります。
他社が2016年3月31日で新規加入の受付を停止しますが、2016年9月30日まで新規加入を受け付けています。
北陸電力
2016年3月31日までのプラン | 2016年4月以降の新プラン |
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エルフナイト8:7円64銭(午後11時から翌朝の午前9時) エルフナイト10:7円77銭(午後10時から翌朝の午前8時) エルフナイト10プラス:7円77銭(午後10時から翌朝の午前8時) |
くつろぎナイト12:10円76銭(午後8時から翌朝の午前8時) |
北陸電力は約3円ほどの値上げになります。
関西電力
2016年3月31日までのプラン | 2016年4月以降の新プラン |
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深夜電力B:13円10銭(午後11時から翌朝の午前7時) | 深夜電力B:13円10銭(午後11時から翌朝の午前7時) |
関西電力に関しては特に料金の変更はないようです。
中国電力
2016年3月31日までのプラン | 2016年4月以降の新プラン |
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深夜電力B:10円02銭(平成28年5月31日まで)、10円21銭(平成28年6月1日以降)(午後11時から翌日の午前8時まで) 第2深夜電力:8円26銭(平成28年5月31日まで)、8円32銭(平成28年6月1日以降)(午前1時から午前6時まで) |
– |
島根県隠岐郡および山口県萩市見島の方に限り、これまでのプランが引き続き加入できるとのこと。
四国電力
2016年3月31日までのプラン | 2016年4月以降の新プラン |
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時間帯別電灯(得トクナイト):11円04銭(午後11時から翌日の午前7時まで) | スマートeプラン[タイプH+]:14円22銭(午後11時から翌日の午前9時まで) スマートeプラン[タイプL+]:14円22銭(午後11時から翌日の午前9時まで) |
夜間がお得になる専用プランがなくなり、夜間の料金が約3円高くなります。
九州電力
2016年3月31日までのプラン | 2016年4月以降の新プラン |
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時間帯別電灯:10円29銭(午後10時から翌日の午前8時まで) 時間帯別電灯(8時間型):9円96銭(午後11時から翌日の午前7時まで) ピークシフト電灯:10円29銭(午後10時から翌日の午前8時まで) |
電化でナイト・セレクト:12円96銭(午後10時から翌日の午前8時まで) |
「オール電化等のお客さまにおすすめの新しい料金プランです。」とあるように、オール電化にしている必要などがあります。
引っ越しの際に新しい電力会社に契約すべき?
電力自由化に伴い、「引っ越しを機に新しい電力会社と契約しよう!」と考える家庭が今後増えてくることでしょう。
既に書きましたが、電力自由化によって誕生した新しい電力料金プラン=安くなるではないことは十分に考慮する必要があります。
何となくよさそうだから…とか、利用しているキャリアだからといった理由で決めるのではなく、しっかりと比較をして決めることが大切です。
料金の件もそうですが、どういう条件でその料金が適用されるかをしっかりと考えてから契約をするようにしましょう。
また、会社によっては契約期間も定められています。
例えば、ソフトバンクでんきやauでんき、ENEOSでんき(にねん とく2割)の場合2年となり、期間内に自己都合で解約する場合は解約手数料が取られます。
2017年4月からは都市ガスの小売り自由化が始まっているので、電気とガスがセットで安くなるというプランを打ち出してくる会社が増えてくることが予想されます(東京ガスはガス販売会社なので、電力自由化により、一足先に「ガス・電気セット割」を開始しています)ので、電力会社を切り替えるのであれば、様々な角度からお得になるかどうかを考慮するようにしましょう。
新プランが出た際、解約手数料を払ってもあまり損しない、あるいは多少マイナスぐらいだったら気にしないという考え方ももちろんありです。
電力会社を替えるかどうかのチェックポイント
最後に要点をまとめると、
となります。
まずは今の電気の使用状況を把握するのが先決。電力会社を替えるかどうかはそこから検討しましょう。